Interview

日田を訪れてどのような印象を持ちましたか?

大巻:水と森に囲まれた町という印象です。朝方には、霧が山あいから町に流れてくるのが見えるんですよね。そういうところからも、自然と生活との近さを実感できる町だと思います。私が生まれ育った町も川に囲まれていたので、幼い頃の思い出の景色と重なり、心を惹かれました。

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私の故郷は再開発によって変わってしまい、かつての景色はもう見ることができません。そこに存在していたものが消えてしまい、時間とともにその記憶がどんどん曖昧になっていく。日田の景色は、そういう「存在」や「記憶」のあり方について問いかけているように感じました。

 

大巻さんの考える「存在」や「記憶」について、もう少し詳しくお聞かせください。

大巻:「存在」や「記憶」は、私の作品にとって大事な要素です。私は幼い頃見ていた故郷の景色は消失し、今はもう存在しません。一方で、人間はあらゆるものを作ります。それはあたかも世界を作り出しているかのようです。そこに存在していたものが失われ、新しい風景に作り変えられていくと、かつてそこにあったものの存在はやがて私たちの記憶の中で曖昧になっていく。そうして変わりゆく「存在」や「記憶」のような大事なものを、私たちは取り戻すことができるのだろうか。故郷の風景を失った経験から、私はこのようなことを探りながら作品を制作しています。

 

本展のタイトル『SUIKYO』には、どのような思いが込められているのでしょうか?

大巻:人間の営みと自然とは、水を通してお互いに影響を与え合いながら対をなしています。水郷 (すいきょう) と濁らずに読むのは、日田は水も自然も人も濁りなく清らかであるためと聞きました。私がこの読みから連想する言葉に「水鏡」があります。

今回の展覧会では、大きく俯瞰したり近くに寄ったり視点を変えながら、日田の雄大な自然やここに暮らす人々の姿を捉え、表現したいと思っています。そこで、この2つの視点で捉えた対をなすものを映し出すという意味を込めて、展覧会のタイトルを『SUIKYO』と名付けました。

 

水鏡という言葉から、過去と現在、社会と個人など、本展に込められたさまざまな対をなす要素が思い浮かびます。

それでは、本展で発表する作品について教えてください。

 

大巻:本展では2つの新作を発表するのですが、作品も対になっています。それぞれ違う視点から捉えた日田を表現できればと思っています。

日田市複合文化施設AOSEは現代的で人工的な空間です。ここでは俯瞰した視点から見た自然を表現したいと思っています。日田の風景にまつわる水や霧から着想した作品で、遠くを見ているようで実はすごく近いような、近くを見ているようで遠くを眺めているような、不思議な感覚を体験していただけると思います。

もう1つの作品は、三隈川沿いにある旧料理屋の空き家が会場となります。かつては地域の人たちが一仕事終えたあとに、ここで宴会を開いていたそうです。素晴らしい技術を持った大工が作ったこの建物で、料理人が料理を作り、それを囲んで宴会の場が作られる。この空間には、そんな地域のサイクルが見え隠れしているように感じられました。

この建物は、今はまだそこに存在していますが、今後どうなるかはわかりません。このような存在の危うさや儚さ、ここで多くの人々が築いてきた営みや記憶などを感じていただけるよう、建物全体を作品化しようと思っています。家に入った途端に異なる時間と遭遇するような、知っているようで知らない記憶の中に入っていくような、そういった空間を歩いていただく作品になります。

 

最後に、日田のみなさんや来場される方へ何かメッセージをお願いします。

大巻:アートは敷居が高いものではありません。日田の川や山を眺めるのと同じように、理屈で考えるのではなく、個人の感じ方やイメージを大切にして楽しんでください。みなさんで感じたことをあれこれ言い合いながら見ていただけたらうれしいです。

 

大巻さんの作品は、ごく些細で個人的な記憶を掘り起こすとともに、身体的な感覚を呼び覚まします。ぜひ、作品を通して大巻さんが表現した日田を体感し、自分自身の内面に眠る記憶や感覚を見つめてみてください。